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UNESCOプロジェクト

1 : 事業概要と目的

事業立案の背景、問題意識
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日本は豊かな文化資源を背景に、アジア諸国に先駆けて文化財の記録・活用分野において世界をリードする分析・イメージング技術を活用し、文化財の多様な領域に対応した研究を展開している。近年、文化財の保存に加え、国際的な文化交流や観光分野における活用の効果が認識され、デジタル文化財への関心が高まってきた。そのため、文化財の記録・活用の必要性は増し、大規模な文化財関連施設の設置が急速に進展しているが、同分野の技術とそれを担う人材の育成は未だ不十分で、現場の実情に即した学術的基盤の形成と実務的技術の普及は喫緊の課題である。
そこで京都大学工学研究科では、文化財に特化した超高精細画像入力・分析・表示のデジタル化総合システムを開発し、世界最高水準のイメージング技術を確立してきた。
そのような文化財デジタル化に関する最先端技術を最大限に活用し、自然科学と人文科学的方法の融合による歴史的遺産の記録・活用を実現するためのデジタル化技術基盤の確立を目標とした研究交流と人材育成の取り組みは非常に重要である。

研究目的
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デジタル文化財は、国際文化交流による相互理解や観光資源として経済発展に寄与するものとして、その活用が期待されている。そこで、文化財のデジタル化と活用に従事する研究者や実務者の養成を目的として、自然科学と人文科学的方法を融合し、デジタル化技術を用いたアジア文化遺産の記録と活用に関わる教育プログラム・国際共同研究を対象国(中国・日本)において実施する。 これは、京都大学工学研究科で開発された文化財専用先端イメージング技術により取得した超高精細デジタル画像を用いて文化財の新たな価値の創造を目指す国際研究交流であり、デジタル化の実践的プロセスを通して対象国の研究者・実務者の能力向上をめざす。
また、文化財の多様な研究・実務領域に対応した文・工学両分野の科学的知識を兼ね備え、デジタル技術等も駆使できる国際的な若手文化財研究者・高度専門技術者を養成するための教育プログラムを実施する。

■ 背景

文化財保存に加え国際的な文化交流や観光分野における活用への期待から、デジタル文化財への関心の高まり

■ 目的

文化財の多様な研究・事務領域に対応し、文・工学両分野の科学的知識を兼ね備え、デジタル技術等も駆使できる国際的な若手文化財研究者・専門技術を養成

■ 概要

文化財及びデジタル化に関わる研究者や実務者の養成を目的として、自然科学と人文科学的方法を融合し、デジタル化技術を用いた文化財の記録と活用に関わる教育プログラムを実施
2 : 事業計画

(1)  国際会議の開催

対象国(中国)において、教育・研究機関、博物館、観光機関等の研究者・実務者が参加した研究協力体制を構築し、取り組むべき課題や情報交換を目的とした研究集会を開催する。
また、学術会合に並行して、文化財のデジタルコンテンツ化の実習ワークショップを実施する。

(2) 教育プログラム用教材制作と実施

中国及び日本において、以下の研究者・実務者を対象として、講義や演習による教育プログラムを実施する。

■ 2-1 ) 対象者

┣ 博物館・美術館の学芸員や研究員等
┣ 文化財を活用したメディア・アート関係従事者
┣ 観光分野等においてデジタル文化財を活用したコンテンツ制作実務者
┣ 文化財の保存(保存科学)分野の研究者・実務者
┣ 研究分野で高精細デジタル画像を活用する研究者 等

■ 2-2 ) 目標

【技術者/実務者】
高度な専門知識ではなく、現場で使える技術の習得をめざす。
具体的には、大きく分けて一般ソフトウェアと、色彩・画像関連ソフトウェアである。
本プログラムを通して、高等学校レベルの知識から色彩・画像関連ソフトウェア(例えばPhotoshop、Illustrator、画像処理ソフトウェア)の知識を習得し、さらにそれらの知識を自由自在に使える技術者を養成する。
【研究者】
高度な研究レベルにおいて高精細デジタル画像を用いた分析法や活用方法に関する基礎的な知識・技術の習得をめざす。
具体的には、分析的イメージング、顔料・材料分析(保存科学)、人文社会学における絵図・古文書の活用などである。
ここで基礎知識・技術を習得した研究者は、各分野においてそれぞれがさらに高度な知識・技術の習得をめざすための基礎知識・技術を提供する。

■ 2-3 ) 構成要素・内容


┣ デジタル画像の取得(スキャニング)と画像処理
┣ デジタル画像データの保存・管理
┣ デジタルコンテンツの制作
┣ 知的財産の保護・管理
┣ 研究分野における高精細デジタル画像の活用
構成要素・内容

(3)  国際共同研究の基盤構築

中国との国際的な科学技術コミュニティを形成し、文化財の保存・活用のための国際研究基盤を構築する。
本事業では、教育・研究機関の研究者を対象として、下図に示す文化財デジタル化のプロセスについて、共同研究会を開催する。そして、これらの活動を通じて、中国の研究者や実務者を養成する。
次年度以降も継続的な共同研究会の開催により交流を深め、文化財の高精細デジタル化、コンテンツ化等の高度な文化財デジタル化の実践的課題に共同で取り組むことを目標とする。 その中で、博物館や観光機関等の実務者を対象として、具体的に文化財のデジタル画像を活用したコンテンツ制作に取り組むことを検討する。

(4)  事業の実施スケジュール

前述の事業計画に基づき、事業を遂行した。以下に、事業の実施スケジュールを示す。

スケジュール
 3-1 : 国際研究集会の開催 (中国)
┣ 概要
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平成23年9月19日に中国・北京にて、国際研究集会「国際先端デジタル化技術応用研究会」を開催した。
本会議は、京都大学工学研究科・中国国際科技会議中心・中国文物保護技術協会の共催のもと、中国科学技術協会国際連絡部・中国建築装飾協会培训中心・中国文化遺産研究院培训中心・科学技術振興機構中国総合研究センターの後援を得て、開催された。
各分野の10名の専門家により、文化財のデジタル化技術、デジタル画像による材料・技法分析、絵図・古地図のデジタル化と研究への活用、歴史的建造物のデジタル化、知的財産権をテーマとして、講演・意見交換を行った。
文化財の保存・活用に関わる研究者・実務者に対して参加を呼びかけ、当日は80名程度の参加を得ることが出来た。

国際研究集会の開催(中国)


┣ 会議会場 ( 中国科技会堂 )
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会議会場


┣ プログラム
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9:00-9:05 開会の挨拶
9:15-9:25

主催挨拶  /  中国科学技術協会

9:25-9:35

主催挨拶  /  京都大学

9:35-10:20

建築図面のスキャンニングデータの活用事例—コンドルが日本に伝えた西洋建築のオウセンティシティ(Authenticity)を読み取る—
岡山理科大学工学部建築学科教授 京都大学名誉教授 宗本順三

10:20-10:30 休憩
10:30-11:15

円明園のデジタル化 / 清華大学都市企画設計院 / 教授 / 郭黛姮

11:15-12:00

建築古図面のデジタル化と活用(三菱一号館の復元に則して)

三菱地所株式会社美術館室 / 展覧会プロデューサー 恵良隆二
12:00-13:00 昼食
13:00-13:40

デジタル故宮の建設  /  故宮博物院 研究員 宋玲平

13:40-14:20

世界遺産仁和寺の文化財管理:取り組みと活用
仁和寺  /  朝川美幸・金崎義真

14:20-15:00

石文物の三次元データの記録及び保存・修復における応用

文化遺産研究院 / 博士 呉育華
15:00-15:15 休憩
15:15-15:45

文化財修復技術と素材について

株式会社  宇佐美修徳堂  /  代表取締役  宇佐美直治
15:45-16:20

文化財の生物劣化と熱湿気環境   京都大学 / 教授 鉾井修一

16:20-16:50

文化財のデジタル化と知的財産権
特許業務法人共生国際特許事務所 / 佐藤知予子

16:50-17:20

西安交通大学と京都大学の文化財デジタル化技術の共同研究及び唐壁画のデジタル化実験   西安交通大学 / 教授 方素平

17:20-17:30 閉会の挨拶

┣ 会議の様子
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会場の様子1
会場の様子2
会場の様子3
3-2 : 研究成果 / 教育プログラム用教材制作とプログラムの実施 (中国)

■ 3-2-1 ) 教育プログラム用教材制作とプログラムの実施 (中国)

┣ 教育プログラム用教材制作
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京都大学工学研究科で実施している文・工融合型の文化財教育プログラムを基盤として、蓄積した知識、技術、事例、方法論等をとりまとめ、文化財のデジタル化と活用に関する教育プログラムで使用する教材を制作した。ここで制作する教材は、今後アジア・太平洋諸国において展開するデジタル文化財に関わる教育プログラムにおいても活用することを想定している。
教材資料は、添付資料に示す。尚、対象国が中国であるため、中国語にて制作を行った。
教育プログラム

■ 3-2-1 ) 教育プログラム用教材制作とプログラムの実施 (中国)

┣ 教育プログラム用教材制作
京都大学工学研究科で実施している文・工融合型の文化財教育プログラムを基盤として、蓄積した知識、技術、事例、方法論等をとりまとめ、文化財のデジタル化と活用に関する教育プログラムで使用する教材を制作した。ここで制作する教材は、今後アジア・太平洋諸国において展開するデジタル文化財に関わる教育プログラムにおいても活用することを想定している。
教材資料は、添付資料に示す。尚、対象国が中国であるため、中国語にて制作を行った。

■ 目次と概要

┣ 超高精細大容量画像の安全・ダイナミック表示総合システムの開発
日本画顔料の推定をする画像材料推定総合システムウェアの開発
超高精細で大容量のデジタルアーカイブ画像を安全に表示閲覧できるシステムの開発
┣ 文化財のデジタル化プロジェクト
文化財撮影に特化した超高解像度大型平面スキャナ開発
┣ 分析的イメージング技術の基礎
SR-XRFスペクトルの元素分布画像と定量表示化のプログラム開発
┣ 色の基礎科学
色の基礎、混色の原理と色再現性の方法、色の数値表現
┣ デジタル画像の画像評価と画像処理の実践
デジタル画像の種類、photoshopによる画像処理、デジタル修復技術

(1)  養育プログラム

平成23年9月20日〜23日の4日間、中国において、文化財の記録・活用分野の研究者や実務者を対象として、文化財の高精細デジタル化技術や、文化財デジタルコンテンツ制作に関わる先端の知識・技術・手法等に関する講義や実習を実施した。

■ 3-2-2 ) 参加者

中国国内の文化財に関する研究者・実務者を対象として参加者を募り、29団体から計44名が、教育プログラムに参加した。
参加者の所属先一覧は、右図に示す。 参加者募集については、中国国際科学技術協会の協力を得ている。

参加者

■ 3-2-3) プログラムスケジュール

会場:中国科技会堂(北京市海淀区復興路3号)他

9月19日(月) 国際会議(前章4-1に示す)
9月20日(火) 教育プログラム(共同研究/スキャニング・デモンストレーション)
9月21日(水) 教育プログラム(ワークショップ/チュートリアル)
9月22日(木) 教育プログラム(ワークショップ/チュートリアル)
9月23日(金) フィールドトリップ


プログラムスケジュール01

プログラムスケジュール02


■ 3-2-4 ) プログラム内容 -H23・9・20-
【高精細イメージングとコンテンツ開発】

京都大学 井手亜里、三菱地所 恵良隆二、共生国際特許事務所 佐藤知予子、
仁和寺 朝川美幸・金崎義真、(株)サビア 中塚公博

高精密イメージングとコンテンツ開発
高精細イメージング技術を用いて、平成23年度に実施した仁和寺観音堂デジタル化プロジェクトを紹介。高精細デジタル画像を得ることだけが目的ではなく、その画像から科学情報を得ることを目的とする。
教育プログラム受講者の自己紹介(氏名、所属)を行い、本教育プログラムの目的と成果目標を確認した。
受講者とのディスカッションにおいては、活発な意見交換が行われた。文化財のデジタル化におけるビジネスモデルに対する質疑があり、共生国際特許事務所佐藤氏より海外事例を含めた知的財産権について、及び建築の観点から岡山理科大学宗本氏より文化財保存の用途変更による活用方法について、三菱地所恵良氏より長期的な組織的判断の必要性についての回答があった。
次に、中国では三次元スキャナが普及し始めているが、工業用スキャナであるため、文化財で使用する場合は十分に注意を要する課題が挙げられた。中国では画質の更なる向上が必要であり、なまデータの価値を高める必要である。文化財に特化したスキャナの開発が必要であり、そこでは高精細に画像を入力することが大前提である。
さらに、文化財スキャナの価格の状況について質疑があり、日本の状況について説明があった。中国ではスキャナ本体が非常高額で、別途高額なメンテナンス費用も必要となっている。それに対して、スピードを高めた高精細スキャナを使用することによって、画像処理にかかる費用を削減する事が出来るため、デジタル化における全工程を含めてコストは考えるべきであるとの回答があった。

■ 3-2-5 ) プログラム内容 -H23・9・20-
【高精細イメージングとコンテンツ開発】

下記のように、教育プログラムの終了証書を受講者へ受け渡した。
教育プログラム終了証書授与

3-3 : 研究成果 / 教育プログラムの実施(日本)

(1)  文化財に関するデジタル化技術及び分析技術に携わる人材の育成

京都大学工学研究科井手研究室では、平成21年度から3年間、京都市との連携事業『京都未来を担う人づくりサポートセンター人材育成講座』に参画し、文化財の高精細デジタル化技術と分析手法に関する教育プログラムを実施した。平成23年度も引続き、7名の研究員を受け入れ、デジタル化の実践プロセスやデジタルコンテンツ制作演習を通して、文化財のデジタル化に関わる知識や技術の習得を目指した講義を行った。先端イメージング学プログラムとして、先端イメージング工学、画像処理技術、デジタル修復技術等について、理論的及び実践的な教育を実施した。
実施期間は、平成23年10月〜平成24年2月末までの5ヶ月間行った。

(2) 教育プログラム講義内容

教育プログラム講義の内容


文化財のデジタル画像処理の一連の作業フローに基づき、各段階について全内容を網羅する講義・実習を実施した。
講義形式のものと、実際に制作を行う実践形式のものを組合せ、総合的なプログラムを構築した。

■ A) 超高精細画像取得

大型非接触超高精細画像取得装置(以下、大型スキャナ)を用いた文化財のデジタルアーカイブに必要な基礎知識及び基本操作方法について実習を行う。

■ B) デジタルカラー画像処理概論

色の基礎知識から数値化、混色理論、カラーマネージメント一般論まで概論を講義する。また、カラー関連デバイス(デジタルカメラ、プリンターなど)の技術について理解を深める。

■ C) デジタル画像処理の画質評価

デジタルカメラで設定を変えて取得した複数の画像について、その画質の評価を主観的な方法と数値指標を用いた客観的な方法で行い、補正のための画像処理についてPhotoshopを用いて実践する。

■ D) デジタル画像処理の実践

一連の講義内容の実践として、PhotoshopやIllustratorを使用し、文化財等の印刷や表示等の出力、各種資料の作成を行う。
また、文化財の高精細画像を分析し、デジタル的に修復するデジタル修復実習を行う。


(3) 教育プログラム講義スケジュール

平成23年10月〜平成24年2月末までの各講義スケジュールと流れを以下に示す。

教育プログラム講義スケジュール


(4)講義風景



講義風景

3-4 : 国際共同研究の基盤構築

(1)  中国での活動概要

中国との国際的な科学技術コミュニティを構築し、文化財の保存・活用のための国際研究基盤を構築することを目的とし、教育プログラムに併せて、文化財に関わる研究者・実務者を対象として、故宮博物院にてスキャナのデモンストレーション及びコンテンツ制作に関する研究会を開催した。
故宮博物院で使用されているドイツ製スキャナにより取得したデジタル画像と、京都大学のデジタル画像を比較検証する等、両国間の技術研究を行った。実践を交えた講習と活発な意見交換により、文化財のデジタル技術に関する理解を深め、さらに今後の共同研究に有用な交流が展開できた。

(2)  研究会の開催

・ 日時・場所:2011年9月20日 13:00〜17:00 故宮博物院
・ 対象:文化財に関わる中国人研究者及び実務者
・ 内容:スキャナのデモンストレーション、デジタルコンテンツの紹介他

研究会の様子1
研究会の様子2

京都大学工学研究科 機械理工学専攻 先端イメージング工学 井手研究室